「今はちょっと、ついてないだけ」を上梓しました

 こんにちは、桜が各地で咲き始めましたね!

 さてこのたびはご報告があります。「小説宝石」(光文社)で連載させていただいた「今はちょっと、ついてないだけ」が本になりました。

伊吹有喜『今はちょっと、ついてないだけ』

伊吹有喜『今はちょっと、ついてないだけ』  かつて、世界の秘境を旅するテレビ番組で一躍脚光を浴びた、「ネイチャリング・フォトグラファー」の立花浩樹。バブル崩壊で全てを失ってから15年、事務所の社長に負わされた借金を返すた […]

 この作品の主人公は四十代の元カメラマン。彼を中心に『今はちょっと、ついてない』状況にいる人々を描いた作品です。本の帯にある『人生に、敗者復活戦はあるのだろうか』というキャッチコピーは作品中で登場人物が語る言葉です。

 本当のところは人生に勝ち負けはなく、勝者も敗者もないと思います。ただ自分が望んだ方向に進めないとき、あるいはこれまで進んでいた場所から思わぬ方向転換を強いられるときが、誰の人生にでもあるのではないでしょうか。若いときはそうした事情を誰かに打ち明けたり、相談したりすることはできても、成熟してそれぞれの生活の事情が異なってくると、友人や、ときには家族にすら相談しづらく、一人で途方にくれることもある気がします。

 この作品は人には言えない、そんな思いを抱えた男女の物語です。最終話の「羽化の夢」のあと、彼らはどうなるのかを時々考えます。もしかしたら成功するかもしれないし、思うようにいかないかもしれない。それでも「今はちょっと、ついてないだけ」と動き出した時点で、ゆるやかでも彼らは望む方向に進み出したのだと思っています。

 若さが薄れていくなか、代わりに濃くなってくるのは仕事の浮沈、家庭の事情、体調の変化。たとえ思うようにいかぬ局面に立っても、今は少しついてないだけ。しのげばきっと良いツキ、良い時期がめぐってくるに違いない。そう思っていたいし、そうあってほしいと願っています。
「今はちょっと、ついてないだけ」。お近くの書店にて発売中です。お手にとっていただけたら、とてもうれしいです。

 

■「彼方の友へ」が最終回を迎えました!

 さてもう一つご報告が。三月発売の「J-novel」(実業之日本社)にて、「彼方の友へ」が最終回を迎えました。

 この作品の舞台「乙女の友」は戦前、戦中、戦後の三つの時代を通して、常に少女たちの心を捉え続けた実在の雑誌「少女の友」編集部をモデルにしたものです。2013年の春、季刊誌「紡」にて連載開始後、「J-novel」へと掲載誌が移り、ちょうど三年になります。

 どの作品も登場人物は身近に感じるのですが、三年の間、ともに過ごしてきたので、主人公の波津子や有賀主筆はまさに『友』のように感じます。機会があれば、ぜひ登場人物たちにまつわる短い話を書いてみたいです……。霧島美蘭のお洒落&有賀の私生活、そして波津子が空井家でこしらえた素敵なお菓子等々。本編に入れなかったエピソードがたくさんある作品なのです

 そんな「彼方の友へ」は戦前、戦中についての追加取材と確認を行い、来年の春に刊行予定です。昭和十三年から始まる十七歳の少女の物語。ぜひ、お心に留めておいてください。

伊吹有喜