小説推理にて連載「犬がいた季節」が単行本になりました。ただいま発売中です!
こんにちは、昨日に続いてのお知らせです。
新刊、「犬がいた季節」が発売されました! こちらは「小説推理」にて連載させていただいた「犬がいた日々」を改題したものです。
伊吹有喜『犬がいた季節』
伊吹有喜『犬がいた季節』 1988年夏の終わりのある日、高校に迷い込んだ一匹の白い子犬。「コーシロー」と名付けられ、以来、生徒とともに学校生活を送ってゆく。初年度に卒業していった、ある優しい少女の面影をずっと胸に秘めな […]
「犬がいた日々」は三重県・四日市市の高校「八稜高校」、通称「八高(ハチコウ)」を舞台に、平成元年=昭和の終わりから、平成11年=20世紀の終わり、そして令和元年に渡る物語です。
作品内に登場する犬、コーシローは、昭和49年から昭和60年の間、私の母校、四日市高校、通称「四高(シコウ)」で暮らしていた犬がモデルです。実在のコーシローが生きたのは昭和ですが、小説では時代を平成に移して創作しています。
物語はこの「八高」にある日、一匹の子犬が迷い込んできたことから始まります。コーシローと名付けられた小さなこの犬は、高校で暮らすことになり、以来、十数年にわたって生徒たちと行動をともにします。
春になると十八歳になった生徒たちの旅立ちを見送り、その一ヶ月後には、十五歳の初々しい新入生を校門の前で迎えるという日々です。
この作品では歴代の十八歳たちに焦点をあて、彼らが初めて自分の人生の進路の舵を大きく切るときを描きました。
地方で暮らす生徒たちにとって、最初に決めなければいけないのは、郷里で暮らすか、違う街で一人で暮らすかという選択です。
どちらを選ぶにせよ、そのとき心のなかでひそかに誓った思いは、それからの人生を進むとき、道しるべともなり、ときには大きく背中を押してくれる力にもなります。
昭和の終わりから、20世紀の終わり、そして奇しくも平成の終わり。
変わっていく時代と、どれほど時代が移っても変わらない思い。「犬がいた季節」はその二つを描きました。
本作は「小説推理」連載時から郷里をはじめ、多くの方々にお気に掛けていただき、たくさんのご声援をいただきました。とても嬉しかったです。心よりお礼を申し上げます。
この作品は連載中に改元が決まり、最終回を迎えたのは平成30年の3月。まだ新しい元号は決まっていませんでした。とても不思議な巡り合わせの作品です。
物語を通して、直接ではないのですが、その動向が出てくるのは、F1やJリーグ、イチロー選手、安室奈美恵さん…。連載中にF1ではレッドブルと組んだホンダが躍進し、イチロー選手や安室奈美恵さんは新しい進路に舵を切りました。
連載終了時には、新元号の予想や、翌年の東京オリンピックのことなどでとても華やかな話題にあふれていました。
それが令和二年、コロナウイルスの影響でこんなに大きく状況が変わるとは、夢にも思わなかったです。
この作品もコロナ禍の影響を受け、刊行時期が少し遅い時期になりました。しかし、その分、連載時からずっと、応援してくださった四日市の皆様がお力を添えてくださり、現在、この作品の舞台となった場所の散策マップができています。
本来なら、この散策マップの企画は、地元で撮影された映画やドラマのためのものでした。市街地、工場、港、山と海。さまざまな風景が撮影できることから、近年、四日市市はいろいろな映像のロケ地となっています。
それが今年はロケでの撮影ができませんでした。そこで代わりに今回、この小説の散策マップを作ってくださったのです。
そのマップはここからご覧になれます。
「犬がいた季節」の散策マップ
https://yokkaichi-fc.jp/wp-content/uploads/2020/10/inugaitakisetu.pdf
そして、このたび刊行を記念して、密を避けつつ、いろいろな配慮を重ねながら、トークイベント開催が決まりました。とても感慨深く、お力を尽くしてくださった皆様にお礼を申し上げます。
さて……
新作についてインタビューをしていただいたとき、最後によく聞かれるのは作品のテーマです。
私は今まで作品のテーマについて、あまり語ったことがありません。と申しますのも、すべて読んでくださった方のお心に、ゆだねたく思うからです。
その考えに変わりはないのですが、今回だけは緊張しつつも申し上げようと思いました。
本作「犬がいた季節」は『希望』についての物語です。
この作品も心をこめて書きました。どうか、お手に取ってみてください。
次回は、映像化と盛岡でのイベントについてのお知らせをご報告いたしますね!
伊吹有喜