11月1日 八重洲ブックセンターのお茶会にて〜「彼方の友へ」内緒話のメニューを作ってみました
こんにちは、伊吹です。前回に引き続き、お茶会のお話のメニューを考えてみました。いかがでしょうか? お気に召す一品があったら、うれしいです。
●無頼な男と清廉な男。
敏腕の編集者と先鋭的な作風の作家。二つの顔を持つ有賀は、自分のなかで心情の切り替えをする小物を持っています。作品中で、波津子の前でその切り替えをしているシーンがあります。スイッチとなるその小物のお話を。
●有賀と波津子のヴィジュアルイメージ
昨日のメニューにもありましたが、ヴィジュアルイメージは登場人物をイメージする写真であったり、音であったり、香りであったり、いろいろです。有賀と波津子のイメージの核となった音楽と写真のお話です。
●純司の店「風花」の秘密
純司の店の名前「風花」には彼の秘めた思いがあるという設定を組んでいました。ぎりぎりまで入れるかどうか迷ったのですが、最終的に削りました。結果、裏設定となった内緒話です。
●有賀は純司の思いを知っていたかどうかの考察。
創作上の人物ですが登場する人物は、自分の親戚や友人のように感じるもの。そこで、なんとなく歯切れが悪いのですが……私はこう考えています、というお話です。
●僕は憲一郎という名前だったんだよ、という台詞の裏のお話
あの台詞には、有賀の南方での仕事の内容からの思いもこもっているという設定です。
また、波津子の前ではあまり見せなかった(というより波津子は気付かなかった)のですが、有賀は「マチ」と書いて、盛り場で酒を飲んだり女性にもてていたり。ときにはそこへ荻野紘青が乱入したり。そのほか、シベリア鉄道経由で欧州に出かけた経験があったりと、活動的なところがあるという設定です。
そうしたシーンもいくつかスケッチ的に書いたのですが、まったく本編には入らなかったので、そのあたりのお話もあわせまして。
●音符の暗号の安らぎ
この音符の暗号を有賀はどんなふうに使っていたかという設定のお話です。
あわせて私が書いた、音符の暗号が掲載されている本の帯をお持ちします。
水玉模様のその帯、装幀の成見紀子さんデザイン、装画の早川世詩男さんの鈴蘭の絵が入ったとても可愛い作品で、私の宝物のひとつ。名古屋の書店を中心にした全国有志の書店員さんによる『乙女の友大賞』受賞の折のものです。あわせて素敵な装幀のお話なども。
●シェン様こと、上里編集長の秘密
ふらりと「マチ」に入ったきり、なかなか帰ってこない有賀主筆の代わりに、粛々と仕事を進めていたのが上里編集長。シェン様という彼のあだ名は実は当時の文壇事情から生じています。
作品内にもちらりと出ているのですが、上里は実はある事の「神」レベルのお方だったのです……。
●ジェイドのハートとハツ、ヘルツ
ジェイドこと小嶋翡翠はとても好きな登場人物です。「乙女の友」のモデルとなった「少女の友」の愛読者には宝塚歌劇(当時は宝塚少女歌劇)のファンが多く、団員による舞台裏のこぼれ話の連載があったり、純司のモデルになった中原淳一氏の奥様が男役のトップスターであられたりと、縁がありました。
そうしたところから、美しく謎めいた登場人物、ジェイドが生まれました。波津子は彼女にたいそう心惹かれます。そのジェイドと波津子の父とは浅からぬ因縁があるという設定。ジェイドと波津子、波津子の両親をめぐる内緒話です。(そしてジェイドの本名のお話も)
●有賀の服装事情
会社では瀟洒なスリーピースの背広を着ていた当時の紳士たちも、家に帰れば実は着物姿に。有賀も自宅では和装という設定です。ところが調べていくうちに驚きの当時の服装事情が出現。
その件について仔細に調べ、事前に設定を組んだのですが、いざ本編を書き出したら、まったく登場しなかったという戦前、戦中の殿方・服装事情です。
●村岡花子先生とあのお方、そして有賀の婚約者
「赤毛のアン」の翻訳者、村岡花子先生は「乙女の友」のモデル、「少女の友」の執筆者のお一人で、長期連載をお持ちでした。
史絵里が憧れてやまない翻訳家は村岡花子先生をモデルにして書きました。史絵里が美蘭と一緒にその先生のお宅に行く約束をしたと、うっとりと語っているという場面は、「赤毛のアン」シリーズが好きだった私も書きながらうっとり……。
連載時には、有賀と美蘭が呉で語る思い出話のなかに、村岡先生をモデルにした翻訳家が登場するシーンがあります。ところが単行本化に際して見直すと、読み手のスピード感を削いでしまうので、やむなくカットしました。
今回、連載のその誌面をお持ちします。学生時代の有賀と美蘭、のちに有賀の婚約者になるサヤ、そしてある夫人を登場させたこのシーン、アンの「腹心の友」たちはきっと微笑んでくださると思います。
……こんな感じのお話はいかがでしょうか?
会場でお目にかかれますこと、楽しみにしております。
伊吹有喜
伊吹有喜『彼方の友へ』
伊吹有喜『彼方の友へ』 平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けら […]