「彼方の友へ」を上梓しました!

 冷えてきたなあ、とは思うのですが、今年は例年にくらべて比較的温かいですね。いかがお過ごしでいらっしゃいますか?

 さて嬉しいお知らせがあります。2013年から連載させていただいた「彼方の友へ」がいよいよ本にまとまり、発売されました。

伊吹有喜『彼方の友へ』

伊吹有喜『彼方の友へ』  平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けら […]

 物語の始まりは昭和十二年のまさに今の時期です。主人公のハツ(波津子)は女学生の間で絶大の人気を誇る雑誌「乙女の友」に憧れる十七歳。家庭の事情で女学校への進学をあきらめ、女中として働いているのですが、勤め先から解雇を言い渡され、途方に暮れています。そんな波津子の前に、夢のような話が舞い込むのですが……。

 この作品は実在の雑誌「少女の友」をモデルにした「乙女の友」編集部を舞台に、一人の少女が大人になっていく姿、そして時代の大きな変化に翻弄されながらも、自分たちが信じるものをどこまでも真っ直ぐに伝え続けようとした人々の姿を描いた作品です。

 創作なので、実際の「少女の友」編集部とは異なる部分も多いと思います。それでも充実した誌面を読者のもとに届けようとする作り手の志、その雑誌を多くの読者に届けた人々の熱意、その雑誌を心待ちにして、読後の感想や思いを編集部に届けた読者たちの情熱。こうした思いは変わらないと思い、描いてきました。

「少女の友」に関わった方々と出版界の先人、そして私にとっては祖父母の時代でもある、この時代を生きたすべての方々に心からの敬意をこめて。

「彼方の友へ」。お手にとっていただけたら嬉しいです。

 

  この作品に関するエッセイ「消えぬもの、続いていくもの」が、近々「Webジェイ・ノベル」にも掲載されます。掲載されましたら、また、こちらでお知らせしますね。

 

 それほど冷え込まないといえど、この寒暖差は油断大敵! 食欲の秋です。美味なるものを食して、しっかり体力をつけませう。そして読書の秋でもあります。よかったら、ハッちゃんこと、波津子の物語もぜひお手元に。
 それではまた、おたよりします。

伊吹有喜